◆蓄光式誘導標識の変遷と高輝度蓄光のメリット
1 進化した「蓄光素材」
2 安全標識りん光材料と蓄光式誘導標識としての反映
3 消防法令における高輝度蓄光式誘導標識板
4 蓄光性素材のその他ラベル・標識への活用と注意点
■進化した「蓄光」素材

■まず『蓄光』とは?
蓄光とは、大まかには、明るい場所で文字の通り「光を蓄える」事によって、周囲の明かりが消えた後にも物質が一定時間発光を続ける事を指します。
この発光現象(=『りん光』)は、『蛍光』とも原理が近いものですが、励起のための周囲の光が消えた状況で発光現象が続くことが大きな違いであり、それを原理として「夜光」の役割を果たします。
そしこうしたて「光を蓄えて発光」(=光を受ける状態と発光する現象との時間差がある)という性質が、「災害・事故などで急に照明が遮断された環境」において、非常に大きな役割を果たすことになります。


実際に今日では『夜光塗料』として使用されているものは、概ねこの『蓄光』である事が殆どですが、これを正確に言うなれば「蓄光性夜光塗料」であって、ここでは暗所で光る事の「夜光」と、そのプロセスや性質が表された『蓄光』の言葉は区別して使用する事が望ましいでしょう。

化学上の正確な定義は別にして、『サイン・標識類の材料としての性質の違い』という視点においては、以下のように簡単に捉えておいても差し支えありません。
 蓄光・蛍光・反射の性質と用途の違い
蓄光』  性質    明るいところで光を蓄える事によって、『暗所でも一定時間発光が続く』
特性・用途  「反射」のような強力な輝きは持たず、暗所での視認性は時間経過とともに徐々に低下してゆくが、光が蓄えられていれば、全く光源のない場所でも一定時間の視認が可能であるため、非常時・停電時における目印として非常に有効である。
 『蛍光』   性質    光・紫外線などに反応して、明かりのある場所では『鮮やかに見える』
 特性・用途 暗所では視認できずく、著しく薄暗い環境や照明によっては機能しない場合があるが、鮮やかな色彩でよく目立つため、日中や照明のある屋内環境で当該箇所の区別明示に適する。
 『反射』    性質    受けた光を反射することで、『暗所でも光源の側からは明るく輝いて見える』
 特性・用途 暗所での視認には光源が必要であるが、光源に向かってその光を反射させる事により、光によっで遠方からでも非常によく目立ち、夜間の工事現場や駐車場、道路標識、そのほか夜間にライトを使用する環境においての視認性が良好である。

■安全で高性能な蓄光素材へ
さて、この蓄光素材の性能が近年において大幅に向上し、標識の用途に限らず般家庭向けの用品にも身近に活用されている事はご存知の方も多いかと思われます。その一方で安全性つまり放射性物質に関する懸念のお問い合わせを頂く場合もあります。
ここで先に述べておきますと、当社・他社を含めて、現在一般的に取り扱われているこうした蓄光素材製品に
放射性物質は含まれていません

確かに初期の時代においての夜光・蓄光素材において長時間視認できるという必要性を満たすには、光のない状態でも励起のための放射エネルギーを供給する目的で、微量の放射性物質の添加を必要としました。
そうした「自発光性夜光塗料」の添加原料として、かつての夜光時計などにはラジウム(Radium-226)が使用された事があり、それよりも安全性の高いものへの移行としてトリチウム(Tritium)、日本ではプロメチウム(Promethium-147)が使用されましたが、いずれもIAEA(国際原子力機関)やISO(国際標準化機構)定める放射性夜光時計の規格に基づいて、しかるべき放射能量とケースの防護性に適っていなければならないことが前提です。

標識やサインなどにおいては、広い面積での視認性を要求されるうえ直接ユーザーの手の触れることも多いため、こうした自発光性夜光塗料を使用することができず、従って「蓄光性」の標識におけるその輝度性能や残光時間は限られたものとなっていました。

しかし安全性の観点から1993年、某メーカーによって「放射性物質を含む自発光性夜光素材」に代わる「性能の高い蓄光性夜光素材」が発明されたことによって、蓄光素材は夜光時計・蓄光式サインのほか日用品にいたるまでその優れた利点が広く活用される事となりました。
昨今では防災の観点に加えて省エネとCO2削減上も有用である事から、こうした性能の実現が消防法令や規格に反映されたうえで蓄光式標識、蓄光式誘導標識の定義付けがなされ、現在ではさらに高輝度蓄光式誘導標識としての用途が定められるに至っています。

■安全標識りん光材料と蓄光式誘導標識としての反映

■蓄光性能の違いの概要
先述のように性能の高い蓄光素材が登場した時点で、それ以前に使用されていた蓄光素材とは『素材(組成)自体の違いによる性能の差異』が生じましたが、実際に製品として使用する場合の「製品そのものの性能」は、製品中の蓄光顔料の含有率や蓄光層の厚みという、光エネルギーを蓄える製品構造の違いによっても変わってきます。
この新しい蓄光素材(アルミン酸塩化合物タイプ)を使用した製品は、そもそも旧来の蓄光素材(主に硫化亜鉛タイプ)のものより大幅に、長時間明るく残光するものですが、消防法に係る避難誘導標識として近年あらたに、
長時間の性能をもつ『高輝度蓄光式誘導標識』の基準が設けられるなど、その使用用途に応じて求められる製品の輝度性能は異なってきます。

(※なお、当社ではかつてこの新しい蓄光素材を、旧来の蓄光素材より輝度が高いものであることを区別する便宜上、「高輝度」と注記しておりましたが、消防法の改正によって「高輝度蓄光式誘導標識」の定義がその基準とともに定められた事により、その「高輝度蓄光式誘導標識」の定義に当てはまらない「中輝度蓄光式誘導標識」の区分に属する事となり、新たに「中輝度蓄光式誘導標識」「高輝度蓄光式誘導標識」の区分けで製品を掲載する事となりました。何とぞご留意のうえご了承願います。)

ここでは便宜上、旧来の蓄光素材(硫化亜鉛タイプなど)を「旧蓄光」とし、現在おもに使用されている蓄光素材(アルミン塩化合物タイプなど)を「新蓄光」と区別することとします。
(旧蓄光・新蓄光の括りは省令や規格に定められたものではありません。)
この「新蓄光」で実現可能となった輝度性能に照らして、現在はJIS規格(Z9107「安全標識―性能の分類、性能基準及び試験方法」)においては、「5.2.2 りん光材料の最低りん光輝度」として以下のように定められています。

りん光材料の最低りん光輝度は、(〜略)によって測定したとき、表2または表3に示す四つの副分類のいずれか一つに該当しなければならない。
表2 常用光源ランプD65を用いたりん光材料の最低りん光輝度  (mcd/u)
副分類 最低りん光輝度    
 2分後 10分後   20分後  30分後  60分後
 JA 210 50  24 15 7
 JB 440 105  50  31  15 
 JC 880 210 100  62 30
 JD 1760  420 200 124 60
励起輝度条件:200Lxで照射して励起時間20分     
JIS規格上での蓄光性の標識としては、上記の副分類JAの輝度性能が最低限必要という事になります。

このJIS規格で定める基準とは別に、消防設備上の避難口誘導標識・通路誘導標識に関しては、消防法施行規則等に定める基準が「蓄光式誘導標識」として設けられています。
上記の励起条件において20分後の輝度が24mcd/u以上・100mcd/u未満のものを「中輝度蓄光式誘導標識」、100mcd/u以上のものを「高輝度蓄光式誘導標識」と定義する事となったうえ、「高輝度蓄光式誘導標識」の性能はその励起条件と所定時間後の輝度に応じて、さらにS50からC200までの認定上の標識区分に分類されます。
 旧蓄光※
(硫化亜鉛系など)
 新蓄光※
(アルミン酸塩化合物系など)

消灯後、
おおむね数分間残光する
消灯後おおむね数時間残光する
(備考)
旧来の素材であり、今日のJIS規格及び消防法施行規則に定める消防設備(誘導標識)の要求する性能を満たすことには適していない。
 
JIS規格 (安全標識のりん光材料) 
  副分類 JA JB JC JD  
消防法 名称 蓄光式誘導標識
中輝度蓄光式誘導標識 高輝度蓄光式誘導標識
標識
区分
(級)
 なし  C  B  A  S
 200 200
100
200
100
50
200
100
50
※「旧蓄光」「新蓄光」の括りはここでの便宜上の表現であって、正式な区分けによる呼称ではありません。
※上図は相対的なおよその性能の順序によって並べたものであり、JIS規格による性能基準がそのまま消防法施行規則の定める基準に対応するという意味ではありません。
高輝度蓄光式誘導標識の標識区分の数字は、励起条件の照度(200Lx・100Lx・50Lx)を意味し、つまりこの数字が小さいほど、「暗い照明で照らした場合」を意味しており、その照度条件ごとに定められた標識輝度の基準を満たしている事になります。

先述の通り、「新蓄光」に区分される同じ蓄光素材においても、主に蓄光層の厚みや含有率などに由来する輝度性能の違いがあります。
そもそも蓄光素材は周囲の光を蓄えることではじめてその機能を発揮するものであるため、「長時間にわたって残光できる製品」であっても、そのための「光を蓄える環境の条件」が重要となってきます。
たとえば「高輝度蓄光式誘導標識」の用途においても、設置場所の照度環境によっては、規格最低限(C200級)のものより高い性能=低い励起条件で長時間残光するランクのものが必要になる場合があります。

■消防法令における高輝度蓄光式誘導標識板
■消防法改正における高輝度蓄光式誘導標識の位置付け


平成21年度の消防法改正においては、自動火災警報装置・非常警報設備の設置基準が一部強化され、また避難経路において「火災の煙・熱が内部で急激に滞留しやすい」「高い所に煙が充満するため低い場所に誘導設備がないと逃げ遅れの人命危険性が大きい」という点などを踏まえ、誘導灯の設置基準の見直しがなされました。
この中で誘導灯および誘導標識の設置基準について、主に以下3点の大きな変更がされています。


@コンビニエンスストア・フランチャイズチェーン点、飲食店・販売店やその他殆どの小規模事業所等の誘導灯について、以下の条件を全てに該当する事により避難口誘導灯の設置が免除される。
(避難口誘導灯の設置を要しない居室の追加にかかる事項)
1)直接地上に通じる出入口※(主として当該居室に存ずるものが利用するものに限る)があること
2)室内各部分から避難口を見通せ識別でき、その避難口までの歩行距離が30メートル以下であること
3)消防庁長官が定めるところにより(定められた基準にしたがって)「高輝度蓄光式誘導標識」が設置されていること
⇒1)2)の条件に当てはまる施設においては、「誘導灯」を「高輝度蓄光式誘導標識」に変更できます

A複合防火対象物、カラオケボックスや個室ビデオ店などにおいて、廊下・通路の床面または近くに「通路誘導灯」を設置しなければならない。
ただし、消防庁長官が定めるところにより「高輝度蓄光式誘導標識」が設けるか、あるいは「光を発する帯状の標示」などによってそれと同等以上の避難安全性を確保されている場合においてはこの限りではない。
⇒上記の施設において「高輝度蓄光式(通路)誘導標識」あるいは適切な蓄光テープの設置により「誘導灯」の設置が免除できます

B大規模建物や高層ビル、地下街や地下鉄、空港等の施設については、60分間有効に作動できる電源容量を持つ誘導灯を設置する。
消防庁長官の定める「高輝度蓄光式誘導標識」が設けられている箇所の通路誘導灯については20分間作動できる電源容量とすることが出来る。
⇒上記施設に60分間作動の誘導灯を設置する代わりに、「高輝度蓄光式誘導標識」あるいは適切な蓄光テープを設けて避難安全性を補完することによって、従来の「20分間作動の誘導灯」をそのまま使用できます。

この様に、21年告示の消防法改正の内容は概ねその設置基準の強化を意味するものですが、ここで新たに高輝度蓄光式誘導標識の位置づけが定められた事から、これを活用することで新たな電気設備工事などを必要とせず、手軽に施設の安全性を向上させられるようになったといえるでしょう。

■高輝度蓄光式誘導標識の有用性
蓄光性標識における共通の利点は、配線工事や電力そしてメンテナンスを必要とせずして、明るい状況下で予め貯められた光によって非常時の停電の際にも確実に発光することです。
そして「高輝度蓄光式誘導標識」の規格を満たした製品であれば、適切な設置条件を満たすことによって避難誘導灯の代わりとして機能を発揮でき、誘導灯の新規設置よりも大幅に製品自体のコストも削減でき、初期費用・ランニングコストのいずれにおいても経済的です。省エネでもありCO2削減の課題にも適っています。
●配線・電気工事が不要
●設置が容易で多くの場所に対応しやすい
●工期と工賃を削減でき、営業中既存店舗にも素早く対応可能
●製品自体が誘導灯より安価
●設置場所の照度があれば専用電力が不要

■高輝度蓄光式誘導標識「ステッカータイプ」と「セラミック製タイプ」
ここでは「消防用設備等認定品」である2タイプの製品を挙げます。
ステッカータイプ高輝度蓄光式 SNシリーズ
壁面用/標識区分:C200級
(200lx励起※で20分後実測値=140mcd/u

扱いが手軽なステッカータイプですので、裏面の台紙をはがすだけで使用でき、フラットな壁面であればそのまますぐに貼付が完了します。

●通路誘導タイプ:300×120mm
●避難口誘導タイプ:360×120mm
  セラミックタイプ高輝度蓄光式 「セライト」
壁面・床面用/標識区分:A200・A100・A50級
(200lx励起※で20分後実測値=288mcd/u

壁面だけでなく床面への対応を可能にした、丈夫なセラミック製の「高輝度蓄光式誘導標識陶板」です。

●通路誘導タイプ(薄厚):120×120×4.0mm
●通路誘導タイプ(12t):270×90×12.0mm
               :295×105×12.0mm
●避難口タイプ:150×150×4.0mm
150mm避難口用は天井・壁用金具式もあります
※励起条件はD65常用蛍光灯200Lxで20分照射した場合を例とし、輝度は消灯後20分後の実測値を示す

製品の詳細につきましてはリンク先をご参照ください。
丈夫なセラミック製の「セライト」は、屋内外を問わずに経年劣化に強く輝度性能が高い事も利点ですが、もっとも大きな特長は床面に設置できる点です。この床面への設置そのものが、施工上の大きなメリットになります。

●床面設置のメリット
「設置場所の照度が壁面より確保しやすい」
  ⇒一般的に床面の方が周囲の得られる照度が高く、設置基準を満たしやすくなります。
「設置個所・設置数を壁面より少なめにできる」
  ⇒「壁面の両側に設置」「通路の中央に設置」の違いによって、曲がり角での必要数量が少なくなります。
「店舗の掲示物やレイアウトを損ないにくい」

  ⇒床面への設置は陳列棚や掲示物に影響されにくいため、既存の施設での施工に有効的です。

■蓄光性素材のその他ラベル・標識への活用と注意点
■安全ラベル・銘板としての対応
消防法規における避難設備としての蓄光式誘導標識・高輝度蓄光式誘導標識については、災害時の避難誘導という観点から、前述の消防設備認定品のような当該規格の適合製品である事が必要ですが、そうした規格品でなくとも労働安全の視点やおいて蓄光素材を活用することは、非常に有用なものとなりえます。

「急な照明遮断時によく見える」という性質が、安全面の向上において多くのシーンで役立つ事となります。

非常ボタン・停止スイッチ用ステッカー  ドア等へ貼付 (確認喚起・衝突防止用)
スイッチ用ステッカーは非常通報スイッチの位置を明確に示すほか、電源復旧時に工作機が突然動きだす事故を防止するための電源遮断操作に非常に有効的です。 

ただし、これらを使用する場所においては避難誘導標識との混同を防ぐために注意する必要があります。
誘導標識の設置基準においても、その周囲に紛らわしい掲示物を設置しない事が要求されており、こうした掲示物を通路等に乱用することは、本来の避難誘導標識が区別しづらくする事にもなりかねません。

しかし、その点に十分留意したうえで適切に活用すれば、工作機械などの再起動事故防止などには大いに役立つものであり、火災時の避難誘導においても、障害物への衝突を避けるために明示することで、避難時の事故防止に役立てる事も可能です。
また、『倉庫やピット内などの閉じ込め事故』の対策として使用することも、危険箇所からの脱出という意味で同じ目的であって、そうした事故が火災などに付随することも考慮すれば、要所に適切に使用することによって本来の避難誘導システムが十分に活かされる場面も多いはずです。

(※低温(特に冷凍庫など)の倉庫内では蓄光素材の性質上、発光が機能しない場合があります。)

■屋外での活用は?

前述のいわゆる「新蓄光」が登場したことによって、耐紫外線の性能も向上しました。
もっとも、実際に屋外に設置するには耐水性も考慮された仕様のものでなければなりませんが、では実際にこうした蓄光性の安全ラベルおよび標識は、屋外でその機能を十分発揮できるでしょうか。

まず蓄光素材の特性から、「照明が遮断された直後にその明るさを最も発揮する」という点があります。
周囲が暗くなった後は時間の経過に伴って、蓄光素材の明るさ(輝度)は徐々に低下してゆきますが、それでも真っ暗闇の状況ではそれなりに長時間視認することができます。

しかし、急激に明かりが消える屋内と違い、「屋外の暗所」とはおおむね夜になることを意味します。日没における周囲の暗さとは急激ではなく、徐々に時間をかけて暗くなるものです。つまり暗くなってゆくにつれて既に発光が始まっているという状況となるため、少なくとも屋内のように「照明が遮断された直後の明るさ(初期輝度)」を期待する事は難しいと言えるでしょう。加えて、人々が往来するような箇所では夜間であっても街灯やその他の照明によって、朝まで薄暗い状況が継続する事が多く、完全な暗所での視認性とはあまり関わりがなくなります。

しかし、そうした街灯がない場所や、都市の電気網が機能しない状態の災害時にも明示できるように、屋外の標識に蓄光素材が使用されている例があります。これらには耐候性はもちろん、長時間の残光性能を備えたものであることが推測されます。
結論からすれば、屋外で使用されるものは上記の理由から、屋内を想定したものより高いりん光性能と長い残光時間を備えた性能が必要という事になります。広域避難所の標識に使用されている例でも、蓄光素材部分に象嵌加工のように十分な厚みが設けられるなど、用途に合わせて長時間残光するような措置が取られています。